PXL065:NASH治療の新しいアプローチ

PXL065は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療において、新しいアプローチを提供します。 PXL065は、ピオグリタゾンのR-立体異性体(重水素安定化R-立体異性体)であり、その親分子は1999年から2型糖尿病の治療薬として上市されています。ピオグリタゾンは、in vivoで相互変換するR-立体異性体とS-立体異性体を同じ割合で含有する混合物であり、ミトコンドリアピルビン酸キャリア(MPC)の阻害とペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体-y(PPARy)の活性化の両方に作用します。ピオグリタゾンは、NASHを対象に数多くの第Ⅱ相、第Ⅲ相および第Ⅳ相臨床試験が実施されており、肝繊維化を増悪させることなく、疾患の治療に寄与することが認められています。生検によりNASHの確定診断を受けている患者に対して、米国肝臓学会(Association for the Study of Liver Diseases:AASLD)と欧州肝臓学会(European Association for the Study of the Liver:EASL)による診療ガイドラインで唯一推奨されている治療薬です。

しかし、体重増加、骨折、体液貯留などのPPARg活性化に関連する副作用により、ピオグリタゾンの使用は制限されています。R-立体異性体であるPXL065は、S-立体異性体と関連している副作用をほとんどまたは全く呈さないMPCの阻害薬です。非臨床試験においてPXL065は、体重増加や体液貯留を引き起こすことなく、NASHに対する効果が確認されています。

非臨床試験の結果

以下の表は、PXL065のMPC阻害とPPARy受容体活性化作用に関するデータを示しています。PXL065、d-S-pioおよびピオグリタゾンは、ピルビン酸によるミトコンドリアによる最大呼吸(HepG2細胞における酸素消費率ベース)を同程度に低下させることが判明しました。ピオグリタゾンとd-S-pioは、PPARyに結合しPPARyアゴニストとして作用しますが、PXL065は、PPARyにほとんど結合することはなく、100 nMまでの濃度においてPPARyアゴニストとしての活性を示しませんでした。

臨床開発

Poxel社は2018年11月に、健康な被験者を対象として、PXL065単回投与の安全性、忍容性、薬物動態をピオグリタゾンと比較検討する第Ⅰa相臨床試験におけるパート1の結果を発表しました。同試験では、健康な被験者12名にピオグリタゾン45mgまたはPXL065 22.5mgを単回経口投与されました。その結果に基づき、ピオグリタゾン45mgと同程度の R-ピオグリタゾン暴露をもたらすPXL065の用量と、その平衡状態に達するまでの投与日数を予測するための薬物動態モデルを確立しました。また、PPARy アゴニスト代謝物への暴露について、同等の用量のPXL065およびピオグリタゾンの間で比較しました。

この薬物動態モデルは、PXL065 15mgの用量が ピオグリタゾン45mgの用量と同程度のR-ピオグリタゾンの暴露になることを予測しました。ヒトでの薬物動態モデルおよび関連する非臨床試験結果より、PXL065はNASHに対してピオグリタゾンと同様の効果を発揮しつつ、体重増加や体液貯留などのPPARy受容体関連の副作用を低減する可能性があることが示唆されました。第Ⅰa相臨床試験において、PXL065の忍容性は高く、有害事象は報告されませんでした。

また、2019年4月には、健康な被験者24名を対象に、ピオグリタゾンと比べてPXL065の安全性と薬物動態プロファイルを評価する第Ⅰa相臨床試験のパート2の結果を発表しました。同試験では、ピオグリタゾンおよび3用量(7.5mg、22.5mg、30mg)のPXL065を単回投与しました。PXL065は高い忍容性を示し、重篤な有害事象は認められませんでした。薬物動態の結果から、PXL065経口投与後の血漿中濃度(CmaxおよびAUC)は、22.5mgまで用量依存的に増加し、中程度の個人間変動を示しました。また、すべての用量において、R-ピオグリタゾンの重水素安定化が認められました。

以下の図で示しているとおり、薬物動態の評価では、PXL065を錠剤として投与した場合、血漿中濃度が検討された最も高い用量である30mgまで用量依存的に増加することが分かりました。すべての用量において、重水素安定化が認められ、単回投与を行った第Ⅰa相臨床試験と一貫した結果でした。

2019年12月に、健康な被験者30名と対象とし、PXL065の安全性と薬物動態プロファイルを評価し、主要な臨床試験で使用する用量を設定するための反復漸増投与、二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験である第Ⅰb相臨床試験の結果を発表しました。同試験では、すべての用量において用量依存的な傾向を示しました。第Ⅰa/b相臨床試験結果の概要は以下の表のとおりです。

これらの試験およびその他の臨床・非臨床試験の結果から、第Ⅱ相臨床試験で検討するための用量の範囲は7.5 ~22.5mgと特定しました。第Ⅱ相臨床試験の試験計画は以下のとおりであり、2020年中に開始する予定です。

併用療法

NASHには多様な病理メカニズムが存在するため、疾患の進行にかかわる複数の経路を標的とする併用アプローチを用いることが重要だと考えています。Poxel社のNASHを対象とする主力製品の二つは、性質の異なるNASH特有の経路を標的としています。PXL770は、肝細胞への代謝過負荷を軽減するためにAMPKをアロステリックに活性化し、PXL065は、肝臓の炎症と繊維化を防ぐMPC阻害に寄与するため、この2剤が併用療法として適していると考えています。そのため、Poxel社では、PXL770とPXL065による併用療法に加え、両剤とNASH治療に有効なその他の作用機序を有する治療薬との併用療法を検討する非臨床試験を進めています。

NASHについて

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、発症因子がない代謝疾患で、近年、急速に世界中で患者数が増加しています。NASHの特徴は、肝臓に脂肪が蓄積し、その結果、炎症や線維化を引き起こされることです。長期間にわたって無症状の場合がありますが、その間も病状は進行し、重度の障害や肝線維化を引き起こす可能性があり、最終的には肝不全や肝臓がんに至ることもあります。NASHの主なリスク因子は、肥満、血中脂質の上昇(コレステロールや中性脂肪など)および糖尿病で、現在のところNASHに対する治癒可能な特定の治療方法は存在していません。

NASH市場の概要

米国糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Instituteof Diabates and Digestive and Kidney Diseases)によると、肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、米国で最も患者数が多い肝疾患の一つであり、世界人口の約20%、および2型糖尿病の70%近くがNAFLDに罹患しているとされています。

NASHはNAFLDが重症化した肝疾患で、肝硬変や肝細胞癌を進行させます。公開されている調査結果によると、NAFLD患者の約10~30%がNASHにも罹患しています。